インフレ復活は日本経済をどう変えようとしているのか

21/05/2024

日本はこの2年余りの間に、30年間も続いたデフレから完全に脱却したかにみえる。2022年をゼロ%近辺でスタートした消費者物価は上昇ペースを上げ、昨年初めには4%超のピークを付けた後、現在3%弱の水準にある。

インフレ復活は日本経済をどう変えようとしているのか?

日本はこの2年余りの間に、30年間も続いたデフレから完全に脱却したかにみえる。2022年をゼロ%近辺でスタートした消費者物価は上昇ペースを上げ、昨年初めには4%超のピークを付けた後、現在3%弱の水準にある。

円安に加え、いまだ緩和姿勢を続ける金融政策、さらに実質賃金のプラス成長を見据えた大幅な賃上げが広範な物価上昇をもたらし、当初は商品、特に輸入品から始まったものの、今ではサービスへと広がっている。

つまり、インフレはようやく経済に組み込まれようとしている。ソシエテ・ジェネラルでは、消費者物価指数はこの夏場はやや低下するものの、当面は2%か、これをやや上回る水準にとどまると予想している。これはまさに金融当局がめざしている水準である。

消費者:住宅と株式には追い風

それでは、何年も続いたデフレからの脱却は日本にどのような長期的影響をもたらすのだろうか? まず、消費者心理が変化する可能性である。物価が上昇すると、家計は貯蓄、特に現金を減らし、支出を増やすとともに、より重要な点として実物(つまり、インフレに強い)資産への投資を増やすと予想される。

年配の富裕層は金融資産、特に政府の新NISA(少額投資非課税制度)を活用できる株式を選好するとみられる。若い世帯もそうした投資を奨励されているが、彼らの最優先事項は家の購入である。これは、人口の相当数が賃貸住宅に住み、過去20年にわたって先進国を席捲している不動産ブームに乗り切れていない国においては大きな変化である。

日本の消費者がその純資産の多くを株式や不動産に投資してこなかった事実を踏まえると、日本の相対的に脆弱な資産価値にも納得がいく。このことは経済の安定に寄与したものの、デフレからの脱却をより難しくした。それが今後10年、20年にわたって変化していけば、日本経済は英国や米国の経済によく似たふるまいをし始めるかもしれない。すなわち、より不安定ではあるが、おそらくショックからより迅速に立ち直り、富をより急速に築くことができるようになる。

企業:投資しなければ衰退する

企業部門にとって、やるべきことは明確である。投資を増やすことだ。インフレが復活すると企業はまた値上げできるが、投入コストもそれ以上に急速かつ大幅に増加しよう。そのため、企業はより利益率の高い製品に絞り込んで開発しようとするが、それには投資と多額の研究開発費が必要になる。

同時に、負債コストの増加とコーポレートガバナンス改革の影響により、リターンを引き上げざるを得ないが、これには一般に資産の更新、効率性の改善、製品ラインの刷新に向けた投資を行わなければならない。当社の計算によると、TOPIX(東証株価指数)構成企業の株式の平均リターンは10%であるのに対し、米国のS&P500の構成企業では15~20%、欧州企業のリターンはその中間にある。日本企業はこの差を埋めようとしている。

最後に、企業にとって日本の少子高齢化も同じ流れにある。労働力人口の減少は、自動化やロボティクス、最近では人工知能への投資拡大へとつながっている。同時に、国内需要の縮小により企業は海外市場を優先し、現地の製造拠点とサプライチェーンの構築に努めざるをえない。

日本の企業部門、特に家電製品などのセクターの多国籍企業は近年、世界のライバルに押されて勢いを失っている。しかし、これらの企業は基本的な製造、研究能力を失っているわけではない。投資を拡大し、リターンを重視すれば、再び力を取り戻すと私たちは考えている。

政府:管理可能な債務負担

公共財政については、インフレは日本の膨大な債務負担の利払いコストを吊り上げることになる。日本の債務負担はGDP(国内総生産)の260%超と先進国の中で最も高く、この点は大きな懸念である。しかし、政府財政は、インフレが10年物国債利回りの水準を上回っている限り持続可能な状態を維持すると当社は考えており、現在はその状況に該当する。

その理由は、家計で賃金が上昇し、企業で利益が増加すると、インフレは同時に税収を増加させるからである。そのため、日本銀行が金利の段階的引き締めの管理に慎重である限り、税収の伸びが利払いの増加分を継続的にカバーするはずである。

したがって、むしろインフレは政府収入の段階的な改善につながるとみられる。それより難しい問題は、これを追い風に政府が強く求められている構造改革に乗り出すかどうかである。当社が長く指摘してきたように、日本は労働市場の構造的な硬直性の排除に加え、コーポレートガバナンスの改善においては前進している。

しかし、やるべきことはまだ多い。特に医療、年金、教育の改善である。こうした改革は困難でコストもかかるため、最終的にはその原資を賄うための税収増が求められる。現政権がこの難題に取り組もうとしている兆しはほとんどない。しかし、インフレは日本の経済構造と、ある程度まで国全体の考え方を変容させており、私たちは依然希望をもっている。 

英文はこちら、フランス文はこちらをご覧ください

齋藤 勉マルチアセットストラジストソシエテ・ジェネラル証券株式会社
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