大きな成果と、未来に続く無限の可能性

02/12/2019

アジア地域で初めて開催されたラグビーワールドカップ2019日本大会は、11月2日(土曜日)、横浜スタジアムにおいて大成功のうちに閉幕。南アフリカが激闘の末にイングランドを破り、見事に優勝を果たしました。

ただし今回の大会は、ピッチで繰り広げられた世界最高峰の戦いだけではなく、その歴史的な意味合いにおいても、人々の記憶に残るものとなりました。今大会はいくつかの記録を塗り替え、ラグビーという競技が未来に向けてさらに大きく発展する可能性を示唆したからです。


日本大会が打破した、ラグビー界の現状

従来、ラグビーワールドカップ(RWC)では、南半球で開催されるラグビー・チャンピオンシップと、ヨーロッパで開催されるシックス・ネーションズ(6ヵ国対抗選手権)に参戦するチームが栄光を独占してきました。たしかに番狂わせは時折起きてきましたが、RWCで準々決勝に勝ち進むのは、これらの大会に名を連ねるチームばかりでした。そのような状況を打破したのが、開催国である日本です。今回、日本代表チームは地元ファンの大歓声を受けながら、予選プールでアイルランドとスコットランドを接戦の末に撃破。2015年のイングランド大会において、南アフリカに勝利したのが偶然ではなかったことを証明しています。準々決勝では惜しくも南アフリカに敗れましたが、日本代表のパフォーマンスは、ティア1に分類されているチームにとっても、日本がもはや侮れない存在に変貌したことを印象づけました。また今大会を機に日本のラグビーをさらに発展させるべく、各チームはテストマッチを定期的に実現させることも求められるようになりました。

ただし日本代表の躍進は、選手や指導者だけによってもたらされたものではありません。そこには地元ファンの後押しが常にありました。たとえば南アフリカとの準々決勝は、日本全国で5,880万人以上の人々がテレビで観戦しています。これは日本の全人口の半分以上に相当し、1試合あたりの視聴者数の新記録も樹立しました。また日本のファンは、代表チームが敗れ去った後も試合やファンゾーンに足を運び、大会を堪能し続けました。チームそのものの成績はもとより、アジアで初の大会を開催したホスト国としても、日本が今回のラグビーワールドカップにおいて、あらゆる予想をはるかに超えるインパクトを残したことはいうまでもありません。
 

大会で得られた、数多くの経済効果

今回のラグビーワールドカップは、アジア地域でラグビーに脚光を当てただけでなく、過去最高となる29億7,000万ポンド(約4,372億円)の経済効果をもたらし、ビジネスや商業の分野で大きな機会を創出しました。日本大会では合計184万枚もの観戦チケット(スタジアムの全収容人数の99.3%に相当)が完売する一方、113万人以上が全国各地に設けられた公式ファンゾーンを訪問。試合を堪能しつつ、大会の雰囲気を盛り上げました。また大会期間中には50万人の外国人観光客が来日し、各地のホテルやレストラン、バーを6週間にわたって満員にし続けました。

試合は全国各地のスタジアムで行われたため、大会がもたらした経済効果は、首都である東京以外の地域でも実感できました。。大分や神戸、大阪などの都市では直接的な経済効果がもたらされただけでなく、雇用機会の増加、地元の施設やサービスの拡充といった効果も得られました。アーンスト・アンド・ヤング社(Ernst & Young)が作成したレポートによれば、今大会を開催したことにより、日本国内で25,000件以上の雇用機会が直接的および間接的な形で創出されています。  

ラグビーと深いつながりを持つ釜石市では、釜石鵜住居復興スタジアムという専用スタジアムも建設されました。親近感に満ちた独特なスタジアムは、2011年の東日本大震災で尊い命を落とされた方々を偲ぶ記念碑であると同時に、逆境を乗り越えて復興を果たした地元の方々の象徴ともなりました。悲しむべきことに日本はワールドカップの開催期間中に異常気象に見舞われ、数千人もの方々が大きな被害を受けました。今大会のチケットの販売代金や義援金、オンラインショップにおける収益、スポンサーシップや寄付金などを通じて集められた金額の一部は、被災地を支援するために活用されています。
 

 

統括団体であるワールドラグビーが、日本での大会開催を決定したのは、今から10年前に遡ります。当時、日本大会の成否は未知数でしたが、2015年のイングランド大会は経済的な成功が確実視されていたため、仮に日本大会が不振に終わっても、イングランド大会の成功でカバーできるだろうという判断が下されました。また従来の大会では、ヨーロッパ諸国や英国、南アフリカのファンがテレビで視聴できるような時間帯に試合が行われると、放映権料が増える傾向があったことから、逆にアジア地域で大会が開催された場合には、放映権料が減少するだろうと予想されていました。しかし、実際の結果は異なっていました。今大会の放映権料は、実質的に2015年のイングランド大会をも上回ったのです。ラグビー界において未知の領域だったアジアのマーケットは、こうして大きなポテンシャルを発揮しました。


 

社会の変革を促進していくスポーツ

世界中に広がるラグビーファミリーの厚意により、今大会ではワールドラグビーの主なチャリティーパートナー、チャイルドファンドによって運営される「パス・イット・バック(PIB)」というプロジェクトのために、新記録となる250万ドルの寄付金が集まりました。寄付金は現在、ラグビーや各種の教育・社会参加支援プログラムを通じて、25,000人以上の恵まれない若者を支援するために用いられています。これは貧困を緩和し、東南アジアの農村地域に変化をもたらしていくための独自の活動です。PIBが男女の性別にとらわれないインクルーシブな社会の実現に取り組んだ結果、今日では選手と指導者の約半数を女性が占めるようになりました。またPIBは若者が様々な課題を克服し、社会にポジティブな変革をもたらしていくことによって、それぞれの地域社会に「恩返し」ができるような活動にも取り組んでいます。

ラグビーワールドカップ2019は、新しい世代の選手たちに刺激を与える機会ともなりました。横浜で開催された「ソシエテ・ジェネラル・ラグビー・スピリット・フェスティバル」では、インクルーシブな社会の実現に取り組んでいる12のチャリティ団体から派遣された96人の子供たちと、日本の中学生150人が交流。チャイルドファンドと共同で実施されたこのフェスティバルでは、子供たちがラグビーを通じて日本に触れることができただけでなく、ラグビーワールドカップの準決勝を生で観戦するという、非常に貴重な機会を手にすることができました。

 

さらに絆を深める、世界のラグビーファミリー

今回、私たちは世界最高レベルのラグビーを堪能しましたが、ラグビー界は草の根のファンや選手の育成に力を入れていることでもよく知られています。ラグビー界は、情熱的で献身的な人々が築き上げた強力なネットワークであり、大きなファミリーのような構造になっています。私たちは次世代の選手やファンが、特にアジア地域で育まれていくのを、わくわくしながら見守っています。ラグビー界では「インパクト・ビヨンド」というレガシープログラムが展開されてきましたが、この一環として今大会では、アジア地域で180万人の新しい選手がラグビーにさらに深く関わるようになり、かつてない成果を上げました。これはまさに感動的な出来事です。従来、ラグビーの統括団体はラグビー人気がすでに確立し、一種の飽和状態になっている国々において、さらにラグビーを発展させていくために腐心していました。そのような状況を打破し、新たな可能性を拓いたのが今大会に他なりません。日本で開催されたラグビーワールドカップは、新しい人々の心をしっかり掴むことに成功しました。私たちは次回のラグビーワールドカップ2023 フランス大会に向け、このままラグビー界が大きく飛躍し続けることを心から願っております。