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テクノロジーとイノベーションが支えるラグビーの発展

29/10/2019

今日繰り広げられるラグビーの試合を観ていると、草創期のラグビーがいかにつつましいスポーツであったのかを、つい忘れそうになってしまいます。しかし好むと好まざるとにかかわらず、ラグビーはピッチ内外において、技術革新の影響を受けてきました。

そして今や、地球上で最もエキサイティング、かつ多くのファンを擁するスポーツの1つへ変貌を遂げたのです。このような変化は、今大会でも多くの場面で実感することができます。ましてや日本はハイテク国家として世界に知られているため、初のラグビーワールドカップ開催に当たっては、画期的なテクノロジーが数多く披露されました。この記事では、ラグビー界に起きてきた主な変化を皆さんとともに検証しながら、従来は見られなかった画期的な試みについて振り返ってみたいと思います。選手のパフォーマンスを高めるための最新テクノロジーから、ボールの製造技術、放送業界をリードする試合中継の手法、そしてファンのエンゲージメントに変革をもたらした、ソーシャルメディアのキャンペーンに至るまで。ラグビーはこれらのイノベーションとともに、未来へ前進し続けています。

ラグビーワールドカップを、全世界の人がアクセスできるイベントに

ラグビーは、あらゆるレベルで人々を1つに結びつけ、インクルーシブな社会を実現させるスポーツです。統括団体であるワールドラグビーは、ラグビーワールドカップ2019日本大会の開催に向けて、これまで以上に多くの人々が世界のどこにいても48試合すべてを観戦できる枠組みを作りました。結果、テレビ放送やオンラインの中継を通じて、世界217の地域(2015年大会では198の地域)において試合をリアルタイムで観戦できるようになりました。Google とのパートナーシップを通じて、YouTubeでは試合のハイライト映像が提供される一方、ポッドキャストでは 1日中関連番組が放送されました。またラグビーがテレビ中継されない国々でも、ファンは無料で試合を観戦できるようになりました。これは統括団体であるワールドラグビーが、ラグビーというスポーツの持つ拡散力を拡大し、世界中で次世代のファンのエンゲージメントを高めるための一環として実施されました。日本国内ではNHKが8K映像で放送を行っています。これは日本における初の試みとなりました。

実際に日本を訪れ、応援するチームの試合を観戦できるファンの数は限られていたかもしれません。しかしその代わりに多くのファンは、特別な放送体験を楽しむことができました。統括団体であるワールドラグビーは、どんな場所でもプレミアムなデジタル視聴体験ができる技術を開発すべく、日本ラグビー協会と連携して重点的な投資を行ってきました。例えばすべてのタックルやスクラム、そしてトライの映像を様々な角度から撮影して世界中にほぼ瞬時に、そして確実に配信するために、スタジアム内には23台から28台に及ぶカメラが考え抜かれた場所に設置されました。他に類を見ないほど試合に触れることができる放送プランに、試合以外の豊富なコンテンツの提供が加わり、ファンはこれまで以上にラグビーを身近に感じることができるようになったのです。



ソーシャルメディアの積極的な活用

スポーツにとって、ソーシャルメディアがかくも重要になったことはかつてありませんでした。今日ではファン自身がメディアのチャンネルとして機能するようになり、いかなる新聞よりも早く、大会のニュースを拡散させることができるようになりました。このような変化を活用し、デジタル時代の申し子である「Z世代」のオーディエンスにラグビーワールドカップ2019日本大会の情報を提供すべく、大会の主催者側や各スポンサーはソーシャルメディアのプラットフォームを拡充させました。大会の主催者側は、アジアで史上初めて開催されたラグビーワールドカップのビッグプレーや、最も記憶に残る瞬間を360度すべての方向から撮影して提供。その最たるものが、ラグビーワールドカップ2019日本大会に向けて新たに開設された、Tik Tok の2つのチャンネルでした。これらのチャンネルは英語でも日本語でも利用できるようになっており、大会の舞台裏のシーンや各種のインフォグラフ、ファンが独自に作ったコンテンツ、そして大会の最新情報を提供。試合が行われない日にも、ファンのエンゲージメントを維持するのに貢献しました。また今大会では、全世界共通の「#RugbyFever」というハッシュタグが採用され、世界中のファンに対して、ラグビーワールドカップ2019にいかに興奮しているかをアピールしようという働きかけがなされました。このハッシュタグは最初の7日間だけで、 2,500万人ものユーザーに利用されています。これらの様々なプラットフォームはかつてないほど高い人気を集めたハッシュタグと相まって、大会期間中、連日コンテンツを生み出し続けました。

ユニフォームや着用アイテムの進化

ラグビー界で急速に変化しているのは、ファンに提供される観戦体験だけではありません。試合で使用されるユニフォームや道具も、ぶかぶかとしたコットン製の長袖ユニフォームを着ていた時代からは想像もできないほど進化しました。今日使用されているユニフォームは、ポリウレタンとポリエステルの混紡素材を採用。選手たちが走る際の空気抵抗や重量を減らしつつ、相手のディフェンダーにタックルを受けた際には、ユニフォームを掴まれないようにする工夫が凝らしてあります。また今日のユニフォームには、体の動きを妨げずに耐久性を高めるデザインや、速乾性も不可欠となります。これはラグビーの試合が、雨の中やグラウンドがぬかるんだ状態でしばしば行われるためです。さらにイングランド代表のユニフォームは、選手がボールをキャッチしやすいように、正面部分にグリップ素材がプリントされています。このような工夫も、ウエットコンディションでの試合では非常に役立ちます。

そしてもちろん、ボールそのものも忘れてはいけません。ユニフォームと同様に、楕円形のボールは選手のパフォーマンスの向上、より正確なデータ分析、選手の安全確保、そして観客の観戦体験に至るまで様々な理由によって進化を続けてきました。今年のワールドカップで使用されたボールは、地球から7番目に近い恒星の名前を取って「シリウス」と命名されました。シリウスはワールドカップ2015イングランド大会で使用されたボールとほぼ同じですが、製造を手がけるギルバート社によれば「表面の凹凸(グリップを高めるために、ボール全体を覆うザラザラした表面加工)がより立体的になった」という違いがあります。この改良によって、ボールは空気抵抗を増やすことなく、より滑りにくいものになりました。

日本のスタジアム

テクノロジーの進化は、グラウンドを離れた大会運営の分野に関してもあらゆる面で影響を及ぼしています。東京や横浜のスタジアムでは、メディア関係者に入場を許可するために顔認証技術などが試験的に導入されました。このシステムは2020年の東京オリンピックでも導入される予定です。一方、日本全国にある12の試合会場は、今大会のために改修や建造がされたものでした。しかも各スタジアムでは、独自の伝統や特徴を犠牲にせずに、最新のテクノロジーが導入されています。札幌ドームのグラウンドは、野球の試合を行うためにダイヤモンド型に設計されたものですが、ラグビーの試合に向けて仕様が変更されています。このスタジアムは、屋外で天然芝を育ててから、内部に運び込むという独特な方式を採っていることでも知られています。ラグビーの名門チーム、新日鉄釜石の本拠地であった岩手県の釜石では「釜石鵜住居復興スタジアム」が新設されました。このスタジアムは2011年の東日本大震災で釜石市が壊滅的な被害を受けた際に、犠牲になられた方々を偲ぶための場所ともなっています。

選手の安全性の向上から、ファンに対する新たな観戦体験の提供に至るまで、様々なテクノロジーは常にラグビーを変貌させ続けてきました。今年のラグビーワールドカップは、そのような実例を数多く目にするものともなりました。このような変化は、ラグビーを発展させるとともに、世界中のコミュニティの絆を深める貴重な要素ともなっています。ただし今後も決して変わらない要素もあります。それはラグビーの根本的な精神です。名誉と誇りをかけて、肉体を激しく競い合わせながら勝利を目指していくチームスピリット、そして試合後には互いをリスペクトするノーサイドの精神。これら2つの価値観は、新たなテクノロジーの後押しを受けながら、未来にしっかりと継承されていくのです。