洋上風力発電は、日本が目指す2050年までの温室効果ガス排出ゼロの「ゲームチェンジャー」になりえるか?

16/12/2020

「国土が狭く地価の高い日本では、洋上風力発電が日本におけるエネルギー転換を加速させるとみています」

ソシエテ・ジェネラル、アジア太平洋天然資源およびインフラ担当責任者
ダニエル・マロ

2020年10月26日、菅義偉首相は所信表明演説の中で、日本は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにすると宣言しました。温暖化対策に関する国際的な枠組み「パリ協定」は、2050年までに世界の気温上昇を産業革命前から2度以下に抑えることを目標にしており、日本政府はこれを踏まえ、達成時期を初めて明示しました。

この宣言に先立ち、民間セクターは国の再生可能エネルギー転換を後押ししており、政府が2020年10月に発表した目標の2倍となる2030年までに再生可能エネルギー利用比率を最大40%に拡大することを推奨しています。経済界からの要望が高まっている中、政府の宣言により、日本では再生可能エネルギー源の開発が加速し、洋上風力発電は同セクターの投資計画に欠かせない重要な要素になるとみられます。

洋上風力発電の扉が開かれた

日本は、エネルギーの脱炭素化に向けた拡大を一気に進めるため、2030年までに洋上風力発電を整備して10ギガワット(GW)の発電容量を確保する計画を表明しました。また、先般日本政府はこれを上回る2040年までに洋上風力発電を45GWに拡大することも発表しました。対象促進区域1カ所(長崎県五島市沖)の開発免許に係る公募入札が2020年6月24日に開始されました。

開発企業は、資金計画の詳細を含め法律で定められた要件に従って、対象区域での浮体式洋上風力発電設備の詳細な計画を提出しなければなりません。採用される事業者は2021年6月頃に、経済産業省および国土交通省により決定される予定です。

これは、発電容量が20MWと限られる浮体式洋上風力発電開発としての最初一歩となり、続いて2020年11月27日には、秋田県と千葉県の沖合区域で最大1.4GWの着床式洋上風力発電設備を建設するため入札プロセスが開始されました。これは大型着床型基礎プロジェクトとしては初の入札となり、2021年5月27日に締め切られます。対象区域は、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖(北側)、秋田県由利本荘市沖(南側)、千葉県銚子市沖の4区域です。

安倍政権に引き続き、菅政権も入札を行っており、洋上風力発電開発を促進する日本政府の姿勢は一貫しています。

世界で7番目に長い海岸線を有する日本は、洋上風力市場の開発に適した条件を備えていますが、多くの問題を解決する必要があります。コストを抑え、送配電網の整備を進め、社会・環境面の承認プロセスを簡素化しなければなりません。その一方、この資産クラスの開発に必要な資金については、エクイティおよびデットの両面で、また国内、海外両方から流動性の高い資金の確保が期待されるため、容易に調達できると考えられます。

コスト

資金面における重要な要素は、固定価格買取制度(FIT)です。これは、新規プロジェクトによって発電された電気を入札時に定めた価格で電気事業者が買い取ることを義務付ける制度です。新規設備の場合、大規模投資の正当性を示すには収益の確実性をある程度担保する必要があるため、FITは、特に開発企業にとって再生可能エネルギー産業の初期段階では不可欠な制度といえます。 

第一号の秋田港・能代港プロジェクトは、業界にとって大きな一歩となります。合計出力約140メガワット(MW)に総事業費は約1,000億円と、投資額としては比較的高水準ですが、産業を軌道に乗せるための初期費用の発生はやむを得ません。時間の経過とともに規模の経済性によりコストは抑制され、プロジェクトが大型化し、産業が拡大するにつれ初期費用は分散されるでしょう。 

送配電網(グリッド)

取り組むべき2番目の課題は、カーテイルメント・リスク(出力抑制リスク)、すなわち大型洋上風力発電設備からの新規出力量に送配電網が対応できるかどうかの問題です。送電インフラは、発電される何百メガワットもの間欠性発電を供給できなければなりません。日本の地域電力事業者と送電系統運用会社は協調して送電ネットワークを更新し、風力発電に伴う新たな需要動向を管理する必要があります。

カーテイルメント・リスクは、デットとエクイティ両サイドの投資家にとって重要な検討事項であり、十分に軽減されるべきリスクです。幸いなことに日本では、専門家による高度なリスク評価を活用することができます。

資金調達

大型で複雑な長期建設プロジェクトの資金調達では、初期開発から試運転まで、プロジェクトを開始し持続させるために複数の段階があります。日本で見込まれる出資者の全体像を台湾のそれと比べると、きわめて示唆に富んでいます。台湾の場合、国内出資者はほぼ皆無で、このセクターに投資される出資金の大半が海外からとなっていますが、日本には欧州でのプロジェクトに関与し、洋上風力発電事業の実績と豊富な知識をもつエクイティ投資家がいます。今後、海外の投資家はまちがいなく日本で一定の役割を果たすと思いますが、こうした投資家はただ資本を提供するだけではなく、それ以上の価値をもたらすことが重要です。例えば、この資産クラスにおける特定の技能や実績、複雑な建設プロセスに対応する管理能力などが、主な差別化要因になりえるでしょう。

結論として、日本の洋上風力発電開発に向けた最初のステップは、温室効果ガス排出ゼロの目標実現に向けて国が前進する重要な契機となり、ひいては日本のエネルギー転換の主導的な役割を果たすとみています。日本の当局、民間セクター、開発企業、投資家、銀行の総力を結集することで、日本は北アジアにおける最適な洋上風力発電市場になると期待されています。

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