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アジアがラグビーの未来を担う理由

29/10/2019

ラグビーワールドカップ2019日本大会も、いよいよ決勝間近。今回はアジア地域におけるラグビーのルーツを探りながら、この素晴らしいスポーツが、いかにアジア全域で人々の心を掴んだのかを検証していきます。

統括団体であるワールドラグビーが、世界3大スポーツイベントの1つに挙げられるラグビーワールドカップをアジアで初めて開催することを決めたのは、今から10年前でした。当時、ラグビーはアジアで必ずしも圧倒的な人気を誇るスポーツではありませんでしたが、今やこの地域でもラグビーに対する関心は飛躍的に上昇。今大会で得られた人気を、次の段階へ発展させていこうという気運が高まっています。

アジアが拓く、ラグビー界の新たな地平

アジア地域でラグビーを統括するアジアラグビーは、今年初めに創立50周年を迎えました。今大会で得られた多くの収穫を踏まえ、さらに意欲的に活動を展開しようと試みています。アジアで初めて開催されたラグビーワールドカップ2019日本大会は、世界中の人々から熱い視線を浴びていますし、タイミング的にも理想的でした。日本は来年、東京でオリンピックを開催しますが、競技の中には7人制ラグビーも含まれています。7人制ラグビーがオリンピックで実施されるのは、リオ五輪に続いて2度目となります。また今日、アジア地域ではカザフスタンからグアムに至るまで、31もの国や地域がアジアラグビーに名を連ねるようになりました。中には世界ランキングがさほど高くないチームも含まれていますが、アジアはラグビー界全体の発展にとって、最も「ホット」な地域となっています。

アジア地域に拠点を置くラグビーチームの大半は、トップレベルの大会に参戦していません。このため多くの人は、ラグビーはアジアで存在感に乏しく、人気もないだろうと考えていますが、これは正しくありません。実際には、様々な選手やスタッフは密接に連携しながら、アジア全域でダイナミックな活動を展開。ラグビーというスポーツが持つ「価値」を最大限に活用しながら、社会の変革のために役立てようとしています。近年では、草の根レベルでも競技レベルにおいても、統括団体であるアジアラグビーに名を連ねるラグビー新興国の数が急速に増えています。ワールドラグビーの統計によれば、2018年にはアジア全域で登録を行った選手の数は100万人以上に達しました。これは前年比で33%の増加となります。

ワールドラグビーは「プロジェクト・アジア・ワンミリオン」という構想を推進しています。アジア全域においてラグビーの普及を図りつつ、今回のラグビーワールドカップ2019日本大会が、従来の大会の中でも最もインパクトの大きなものになるように万全を期してきました。ワールドラグビーは、ラグビーに触れる機会を若い世代に提供し、継続的に競技に親しむ足がかりを築くべく、「ゲット・イントゥ・ラグビー」という育成プログラムも推進してきました。この活動は、アジア地域におけるラグビー人口の増加に最も寄与しています。

ラグビーが実現させる、様々な目標
 
アジア全域のラグビーユニオン(協会)は、インクルーシブな社会を実現させるためのきわめて有効な手段としてラグビーを規定しています。ラグビーが持つ様々なアドバンテージを活かしながら、非常に多くの成果を上げてきました。例えばインドでは、ほとんどの人がラグビーと直接の関わり合いを持っていませんが、競技への参加レベルでは最高レベルの実績を誇っており、全29州のうち24州で活発にラグビーの試合が行われています。インド・ラグビー協会は「ゲット・イントゥ・ラグビー」というプロジェクトを通じて、女性や障害を持つ方々にも広く門戸を開放。ラグビーが本来備えている恩恵を、誰もが享受できる環境づくりに取り組んでいます。インドでは、女性がスポーツに勤しむことは推奨されてきませんでしたが、このプロジェクトはその伝統を一新したのです。
 
ワールドラグビーやアジアラグビー、そして各スポンサーが草の根レベルでの普及活動をサポートしてきた結果、今やラオスは男性よりも女性の競技人口が多い、世界初の国となりました。このような変化は、(ラグビーは男性向けのスポーツだという)根強いステレオタイプを完全に払拭するものともなりました。様々なプロジェクトは、ラグビー新興国であるラオスに大きな影響を与えています。2010年の時点では、同国の選手数はわずか300人でしたが、今日では3,000人以上を誇ります。しかも、その大多数は女性の選手です。中核を成す複数のイベントや各種のレガシープログラム、その他の様々な取り組みによってアジアのラグビーは健全な成長を続けており、未来に向けてさらに発展し続けていくことが期待されています。
 

アジアから次なるラグビー強豪国は登場するか?

では、アジアからは新たなラグビー大国が登場するでしょうか? これは今後に向けた、大きなポイントとなります。競技人口が増え、アジアのチームが世界の舞台でさらに存在感を増しているため、ラグビー人気は自然に高まっていくでしょう。ワールドラグビーはアジアを最も成長が見込まれるマーケットの1つとして捉えていますが、これにはいくつかの然るべき理由があります。最初の要素は、経済的なポテンシャルです。中国は今後10年間で、ラグビーに1億ドルを投資する方針を明らかにしています。2つ目はスポンサーシップです。ラグビーが然るべきファンベースを確保した場合には、新たなスポンサーがすぐに続々と名乗りを上げるでしょう。2018年にニールセン社が行った調査によれば、アジア地域では世界のどの地域よりも、ラグビーファンの増加が期待できます(全世界で8億人弱、うち1億1,200万人がアジア圏)。またアジアの各チームがランキングを上げ、上位25以内以上に食い込むようになれば、この人数はさらに大幅に拡大する可能性もあります(現在、上位25以内につけているのは日本と香港のみですが、韓国もそれほど大きく引き離されているわけでありません)。最後の要素は競技人口の拡大です。ラグビーの新興国では、草の根レベルでの普及プログラムが確固たる基盤づくりに貢献。ラグビーを健全に発展させると共に、将来に向けて継続的に選手たちが登場してくることが期待されています。

ラグビーはこのように、アジア全域で大きなインパクトを与えています。たしかにラグビーの新興国がラグビーワールドカップのような大会で覇を競えるレベルに到達するまでには、しばらく時間がかるでしょう。日本は今年の母国大会でインパクトを与えましたし、香港は昨年、予選突破の寸前まで行きました。これら2チーム、そしておそらく韓国とカザフスタンを除けば、アジア諸国が世界の舞台で戦えるようになるには、時間をかけて選手を育て上げ、ラグビーに投資を行っていくことが求められています。

アジアの代表チームが、ピッチ上でポテンシャルをフルに発揮できるか否かにかかわらず、ラグビーはアジア全域において、社会に大切な価値観を浸透させ、ポジティブな変化を促す唯一無二のプラットフォームであり続けています。ラグビーワールドカップ2019日本大会が生み出した独自の抗し難い魅力もまた、アジア全域でラグビー界の次世代を担う選手たちに強い刺激を与えたことは間違いありません。