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日本のトランスフォーメーション:「日出ずる国」の新たな夜明け?

02/01/2024

日本は30年以上を経て、再び世界の投資家たちの注目を集めている。

不安定な世界の中で、世界第3位の経済大国は、着実な経済成長と高い企業利益を生み出している。デフレは克服されたようにみえ、「アニマルスピリッツ」の気配が漂っている。株式市場は2023年11月末に33年ぶりの高値となり、1980年代のバブル期につけたピークの更新に向けて上昇を続けている。

引き続きある程度の警戒感は残っているが、それは当然である。変化の兆しは過去何度か見られたが、変化の勢いは消失してしまい、同様に株式市場のリターンや投資家の熱意も失われてしまった。しかし、今回は違う、とソシエテ・ジェネラル証券株式会社の齋藤勉マルチアセットストラテジストは言う。「今回は、変化は本物だと思います。インフレが戻り、構造改革が加速している。新しい日本が生まれようとしています。」
 

今回は、変化は本物だと思います。インフレが戻り、構造改革が加速している。新しい日本が生まれようとしています。
齋藤 勉ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 マルチアセットストラテジスト

特に構造改革の加速が現在の楽観的見方の背景にある。歴代政権の取り組みを足がかりに、岸田政権は、故・安倍晋三元首相が提唱した経済政策「アベノミクス」のいわゆる『第3の矢』を粛々と進めている。金融緩和策の継続と財政刺激策の再三の実施を経て、最終的に日本の硬直的な構造に変化が起こりつつある。

労働市場改革とエネルギートランジションの推進

構造的な変化は労働市場に最も顕著に現れている。高齢従業員と女性の雇用市場への参入促進、および硬直的な年功序列の給与・昇進システムの是正により、15~64歳人口の労働力参加率は9月現在で81.6%に上昇し、史上最高に達した。また、平均月給の伸び率は今年初めに3%に達し、その後も健全なプラス成長を維持しており、日本が長年の物価下落から脱出するけん引役となっている。これは1.3倍という有効求人倍率が示すタイトな労働需給に支えられており、皮肉なことに、国レベルの懸案事項である日本の少子高齢化が、インフレを再び経済に組み込むうえでのプラス要因となっている。

政府はまた意欲的に、かつ資金を投じてエネルギートランジションに取り組んでいる。政府の「グリーントランスフォーメーション(GX)」政策は、脱炭素化に向けた国の取り組みを加速させるため、今後10年間で総額150兆円(1兆ドル)の官民投資を行うとうたっている。このプログラムは一見、米国のインフレ抑制法(Inflation Reduction Act)や欧州のREPowerEUイニシアチブより小規模にみえる。しかし、齋藤氏は、日本はエネルギー安全保障の強化と国内のグリーン・サプライチェーン構築に向けた動きに相当の補助金を出していると指摘する。これらを加えて国民一人当たりでみると、日本のGX刺激策は表面の数字が示す規模より大きい。さらに日本は先進的なクリーンテック(環境保全技術)の開発のリーダーであり、特に燃料・貯留両方のベクトル(手段)として、またカーボンキャプチャー(二酸化炭素回収)としての水素およびアンモニアに注力している。

金融市場の変革

政府は労働市場改革、GX推進という2つの看板政策に加えて、金融市場の変革にも取り組んでいる。個人が保有する多額の預貯金を株式投資へと誘導するため、1月にNISA(少額投資非課税制度)の非課税口座スキームを拡充する。また、国際的な資産運用機関の誘致、悪名高い紙ベースのお役所仕事のデジタル化に向けた取り組みにも乗り出している。

ボトムアップの改革も加速している。安倍政権が約10年前に推進したコーポレートガバナンスコード改革は、東京証券取引所の市場改革によって強化された。直近では、上場企業に資本コストを意識した開示の拡充を求めており、株価純資産倍率が1倍を下回る企業は改善に向けた具体的な目標の提示が求められている。

その結果、自社株買いの波が訪れている。コロナ禍の期間に積み上がった余剰キャッシュがに振り向けられていることもあり、自社株買い設定金額は2022年に9兆4,000億円と史上最高を記録し、2023年も現時点(11月21日)の発表ベースで8兆8,000億円とそれに迫る水準となっている。また、企業はようやく人材の確保・定着に向けた取り組みとして賃金を継続的に引き上げるとともに、低採算事業の資本と従業員の再配置に着手している。

日本では、欧米諸国で一般的な未公開企業へのスピンオフや事業売却が大量に発生しそうな気配はない。文化的な理由もあるが、雇用契約の変更や従業員の一時解雇がきわめて困難で高くつくからである。しかし、齋藤氏によると、経済産業省はそうしたリストラクチャリングを阻んでいる税制と管理面の負担軽減を検討しているという。

一方、若年層はすでに別の道を選んでいる。国内首位の東京大学卒業生の将来の夢は、政府省庁や世界的大企業に就職することではない。ソフトウェアエンジニアとして、あるいは大学での研究に基づいてバイオテクノロジーや環境関係の企業を自ら起業している。日本のような伝統的で保守的な社会でこうしたシフトが起きていることは、大いに強調できるだろう。

リスク選好が戻る

齋藤氏は、日本は一世代前に国の経済発展の原動力となったリスク選好姿勢を取り戻しつつあると指摘する。これには若い働き手の起業家精神、民間投資の増加と企業の生産性向上、消費者信頼感の緩やかな復活が反映している。「賃金上昇は消費者マインドの改善に絶対に欠かせません」と彼は言う。「十分な賃金上昇があれば人々は物価上昇に対応できます。特に品質の改善を伴う場合、値上げに対する日本の消費者の許容度は高まっています。」

世界の投資家にとっての焦点は、今年30%前後上昇している日本株の価格にこうした変化がすべて織り込まれているかどうか、である。齋藤氏は、株価の織り込みは十分ではないと言う。日本株は米国に対して依然として大きくディスカウントされている。しかし、本当に国の再生が進んでいるのであれば、企業収益は長期間に亘って健全な成長を続けるはずである。同時に、企業がより株主フレンドリーになることで、ROEはさらに改善し、株式価値が拡大する余地がある。日本はその歴史を通じて自らを変革させてきており、変化の芽は再度育ちつつある。 

 

これはフィナンシャル・タイムズ(2023年12月6日付)に掲載された、当社寄稿記事の和訳版です。
英語原文はこちらからご覧ください。